- 林さんは、ずっとパリで活動されているんですよね。
- ■ええ、ヨーロッパ文化に憧れ、向こうで伝統的な絵を見ながら絵の勉強をしたいと思って、74年に渡仏して、美術館をまわりながら、一人で絵を描いてたんです。
- ところが、じきにお金が無くなって、働かなくちゃいけなくなったのだけど、労働ビザがとれなくて、わりの悪いバイトしかないんで、油絵を描く時間がとれなくなってしまったんです。油絵は時間をおくと絵の具が乾いてぼかしがきかなくなっちゃうから、バイトで中断されると仕上がらない。でも、絵の勘を失いたくなかったんで、鉛筆デッサンをはじめるようになったんです。
- それで、お尻を描きだすのは…?
- ■鉛筆でデッサンをはじめるにあたって、今までやってなかったテーマを扱おうと思った。昔から興味があって、手をつけてなかったのが女性ヌードで。最初はキリコのような哲学的なものを描こうとしたんですが、ヌードをとりこみはじめたら、エロティックな方にどんどんいっちゃって。
- パリに定住する気はなかったんですが、だんだん絵が過激になってきたので、日本に帰って展覧会をやろうにもできない状況になって。当時はまだ、性器の絵とかは公の場所に持ち出せなかったんです。それで、帰っても仕方ないと、とどまることになったんです。
- でも林さんの描くお尻は蒸し饅頭みたいでおいしそう。
- ■日本にいたときは女性のお尻に興味がなくて、お尻が大きいのがぶかっこうに思えたのに、パリに行ったら、興味が出ちゃった。30くらいで女性のお尻に目覚めたんです。
- ヨーロッパに憧れていたように、金髪女性にも憧れていたとか?
- ■ほとんどの日本男性は、一度は金髪女性を抱いてみたいという気持ちがあると思うんですよ。ただ、むこうの女性は確かに美しくエロティックな体をしてるんですが、気が強いんで私はあまり好きじゃないですね。セックスにはもちろん興味がありましが、男は出しちゃえばそれっきりですから、精神的なものがなければ恋愛は続きませんね。
- 描くときはモデルやモチーフが具体的にありますか?
- ■ケースバイケースです。結果的に絵がよければ描き方はどうでもいいわけですから利用できるものは利用しています。
- 写真を元にすることもあれば、空想で描くこともあります。モデルを雇ってポラロイドカメラで写真をとって描くこともあるし、医学の本を見てエロティックな体を作り出して描くこともあって、決まったやり方はありません。
- 林さんはお尻と同時に排泄も好んで描きますね。
- ■インテリの人の中には“エロティックなものは好きだけど、ポルノは嫌い”という人がいるけど、エロティックもポルノも同じで、エロティックに上品も下品もないと思うんですよ。
どんな綺麗な顔をした人でも実際に性器が女性器に入ってぐちゃぐちゃなっていれば上品も下品もない。私自身、綺麗に加工されたエロティシズムは好きじゃありません。
- 裸の動物的なエロティシズムが好きなんで、猥褻のないエロは気がぬけたビールみたいなもんだと思います。
- 排泄に関しても昔の動物の姿というか、人間の中でなんら進化してない部分ですから好きですね。
|
|
- そういえば最近の画集でも人間の体と鳥がまじって動物化していますね!
- ■人間のことは人間だけを観察してもらわからないんですよ。動物の段階に遡ってみないと。例えば細胞一つをとっても増殖する形質がある。それと人間がエロティックなことをするのは通じていると思うんです。だからある意味で私が絵を描いて生産しているのもウィルスの増殖と同じことかもしれないですね。
- なんだか話が難しくなってきたな…。
- ■難しくない。絵を描くのも動物的なことなんですよ。
- はぁ。林さんの作品はとても緻密ですが、一枚描くのにどれくらいかかりますか?
- ■ノートの大きさで2週間ですかね。鉛筆の跡を残す昔ながらの描きかたなら3日くらいでできるんですが、それを全部消してぼかしていくので時間がかかるんです。それでもまだまだ技術を発展させたいし、より過激な描きたいものがあるんだから、お金から遠ざかってしまいますね。
- …。えーと、パリの暮らしは楽しいですか?
- ■お金があって遊んで食べていければ楽しいかもしれませんが、働こうと思ったら別ですね。外国人には仕事がありませんし。自分のやりたい絵を描いて展覧会だけでは食べていけませんよ。私の場合、金と女しか頭の中にないのに、一所懸命、絵を描けば描くほど売れる絵から遠ざかってしまい、非常に矛盾しているんです。
- …ところで、林さんは筋骨ムキムキでたいへん体を鍛えているようですが。とても気になります。
- ■ウェイトトレーニングを毎日しているんです。10年ほど前、交通事故に遭って、リハビリみたいなかんじで腕立て伏せとかをはじめたんです。
- そしたら1ヶ月くらいで胸がボコボコしてきたんで、おもしろくなって器具を集めて本を見ながらトレーニングをやるようになったんです。
- 性格が明るい方じゃないから、一人でいると憂鬱になっちゃうんですけど、そういうときトレーニングをやると気持ちがすっきりするんですよ。
- 絵を描いたり、文学・音楽を作るのは大脳の生理的作用の一部ですが、ウェイトトレーニングをやると、大脳のホルモン分泌が盛んになるんで、創作活動に非常に有利になるんです。
- もともと大脳には物を考えるという機能はなかったんですね。動物は動くけど、植物は動かない。動かないから植物には中枢神経や脳が必要ない。つまり動物は体を動かすためにのコントロールタワーとして大脳が必要になったんです。
- 昆虫には大脳がなく、体の節にある神経の塊が動きをコントロールしてますが、高等になるにつれ脊椎が形成され、その先端に脳ができたわけです。だから大脳の一番重要な機能は体の動きをコントロールすることで、物を考えるのは大脳の仕事のごく一部。
- 従って筋肉を動かしていれば、脳を刺激して創作活動を高めると思うんです。自慢じゃないけど、鉛筆画で、エロティックなものを描いているのに加えて、ウェイトトレーニングまでやっているのは私以外にいないと思いますね、いい絵を描くために。
- ええ、いやしませんよ、絶対に。
- タコシェ通信15号(98.11.1発行)より転載
|