2006.08     トップへ

  by Ayumi NAKAYAMA

●06.08.26  カネステル
 沖縄のマンゴー園の中に少し植えられたトロピカルフルーツカネステルのおすそわけ。最近、いろいろな南国フルーツが出回っているのに、これは見たことありませんでした。食べ方は室温で置いておいて、熟してきて、皮がベロベロってなったら食べ頃と聞いたので、仏壇の前にしばらく置いておくと、あるとき皮が地割れのようにバリバリと割れていました。食べ頃になると炸裂する果物。となれば、果物屋さんにとって取り扱い難易度が高い。どうりで目にしないわけです。加えて、出回らないのは、この名前に問題がありそうです。カネステル=金捨てる。観葉植物でも「金のなる木」が縁起物として喜ばれるように、スルメをアタリメと言い換えるように、改名すればよいのでは!と思って、新しい名前を考えてみました。「カネフエル」。そうして、これを農園に提案しようとして、調べてみると、どうもカネステルという呼び方はごく一部で、一般にはカニステルのようです。私の耳がおかしいのか、沖縄訛りか何なのか…。肝心のお味は、果物なのにお芋のような味と食感で、植物性の油も含まれているのかクリーミィでいて果物の香りもほんのりして、ケーキのモンブランかスウィートポテトみたいなのでした。

●06.08.23  ハンカチ
 甲子園で優勝した早実の斉藤投手効果でハンカチが俄然、注目を浴びています。私は、ときどきハンカチを忘れることがあり、トイレで手を洗った後で困ったりします。そこで以前「トイレでハンカチがないときどうする?」と周りの人たちに訊いてみて、驚くべき事実が判明したのでした。(少なくとも私の周りの)男性の8割くらいはハンカチを持ち歩かない! 小学校で、あんなにハンカチ・ちり紙検査をしていたのに、ちっとも習慣になっていなかったのです。しかし、“男はハンカチを持たない”という現実を知ってから、ハンカチを持っているという、ただそれだけで、私の中でその人の紳士度数は星二つくらい加算されるようになりました。ハンカチは重要な上品アイテムです。
 男はハンカチを持たないという現実と同じくらいに、かつて私をビックリさせたのは、フランスのハンカチmouchoirが“洟をかむ”という動詞moucherと同根であるということでした。確かに洋画を観ていると、デートのときにハンカチをベンチに敷くこともありますが、洟をかむのにも使っています…。汗や涙を拭うだけでなく色々な用途があったのです。
 それで、この日、レストランで食事の途中に口を拭こうと思ったら、膝の上に置いた紙ナプキンがどこかに行っていて、同席した知人があきれてバッグからポケットティッシュを取り出して、ホイッとよこしたのです。
 それは、ティッシュのようでいてティッシュでない、エンボス加工までされた紙ナプキンでした。でもってその外袋にはmouchoirの文字。ポケットティッシュのようでいて、ポケットハンカチ。フランスでは、残念なことに武富士とかアコムみたいに道端でティッシュを配ったりすることはありませんが、携帯用の紙ハンカチはあるのですね。ハンカチだと思えばチープですが、ティッシュだと思う非常に立派です。トイレで手を拭いても大丈夫そうです。私の中で、はながみとmouchouirが融合した、日本とフランスが結ばれた歴史的瞬間でした。
 しかし、いまでもお茶の席で用いられる懐紙が、ポケットティッシュ出現以前はもっと出番があったのでは?と考えると、これがナプキンやメモや包み紙がわりになっていたはずで、文字通り、私たちが着物を着なくなって懐というパートが消えてから、懐深さもなくなったのかも、と思うのでした。

●06.08.10  学校
 会話の途中、知り合いに「中山さんは大学出ているの?どこ?」と訊かれ、学校を答えたら、急に「ふーん」と、つまらなそうな返事が返ってきました。この「ふーん」はなんだろ? なんで私が学校出てちゃダメなわけ? しかも私は優秀な学生でもなかったのに。と、なにか、とりあわないような態度が心にひっかかったのですが、これって、「あ、中卒なの」で会話が終わっちゃうのと同じ、学歴に対する偏見のような気がしたのでした。それって、いまだに大学が出世のための機関に思われているってこと? と考えてしまった。
 私は学生時代、 昔の外国の詩を読みつつ、これは、この先の一生でおそらくずっと、誰かと語り合うことのない、合コンなどにはもっとも不向きな話題だなぁ〜と感じていました。無駄知識のなかでもトリヴィアル度が低く、話したところで「へぇ〜」と言われることのない、賞味できるが消費期限はとうに過ぎているネタというか、タコシェでお取り使いしているマニアックとかカルトと言われる商品よりも、マイナーなものだと思います。
 よその国の、よくわからない人の作品に向かい合う、「あ、聴いたことある〜」とか「知ってる〜」「懐かしい〜」といった類の共感やら下地のない世界に触れるのは、ある意味、誰とでも繋がれちゃう現代では体験しがたい貴重な事で、うーーんと遠い存在と自分との間に橋を架けるのは、共通の趣味やら情報の符丁合わせでお友達になる場合と違って、それ相応の考えや説明が必要になります。
 少子化の中、大学も生き残りをかけて、役に立つ学問とか実践的な知識を授ける作戦を打ち出していますが、役に立たないこともまだまだ教えておいてほしいです。

●06.08.04  イモとスッポン
 浅草にはちゃんと料理したものを安く出すお店が多いので、時々、お刺身や天ぷらを食べにゆきます。いつも行く和食屋さんには、生け簀があって、板さんが目の前で料理をするのですが、カウンターでお昼の定食を食べていたら、週末のせいかお座敷で宴会の客があり、私の目の前でスッポンの首が落とされ、まだ手足をもがくスッポンを逆さにして板さんが杯に生き血を注いだり、鍋のために解体をはじめました。私はお魚は自分でさばきますが、手足のあるものには不慣れなので、食事をしながら、ヒャっと体を縮めてしまいました。
 しかし、冷蔵庫などがなかった時代、食肉は鮮度を保つために生きたまま売り買いされ、料理をする前に殺されたのだろうし、本来、台所は、と殺の場でもあったはずです。明るくシステマチックになった台所からは、死の影も消えましたが、そんな台所から提唱されるナチュラルでエコロジカルなライフスタイルに違和感を覚えるのもあたりまえかもしれません…。
 それで思い出したのが、原美術館で展示中の束芋さんの映像作品「にっぽんの台所」。メタボリック体型の主婦が、おたまやフライ返しがごちゃごちゃぶら下がる昭和な台所で、煮炊きをしているのですが、お鍋の中では脳みそがグツグツ煮え、冷蔵庫の中には賞味期限が切れたような食品にまじって窓際族と化した中年サラリーマンがおり、冷蔵庫からつまみ出されてまな板の上で首を切られる…。まるで、スッポンみたいに! そして台所の窓の外を、身投げした若者が降ってきたりして何やら不穏な空気が漂っています。
 生活の中で、台所という空間で、葬られると同時に命の糧として料理が供される儀式がなくなってから、死の匂いが薄らぎ、食への欲望がグルメ趣味に変わってから、死や欲望は町中にどんどん放たれたのかもしれません。ぐつぐつ煮えるスッポン鍋を見ながら、現代アートと日本社会に思いを巡らせるのでした。

●06.08.03 梅にやさしく
 土用をすぎると、漬けていた梅を干します。梅の名前には、有名な南高をはじめ、白加賀、鶯宿など風流な名前が多く、どうして誰がそういう名前をつけるのかを知りたいのだけどわからない。私は、品種による梅の味の違いを堪能したいので、梅を買うときに、産地や品種を尋ねるのですが、気にしていないお店も多く不明なこともあるので、まだまだ研究途上です。林檎なんかは種類分けして売られているのに。これは果物扱いと野菜扱いの違いともいえましょう。梅は果物だと思いますが、かなり野菜扱いされています!

●06.08.01 サディスティックな幽霊
 谷中の全生庵には怪談噺で有名な円朝の墓があり、命日の頃、毎年、円朝の幽霊画コレクションが公開されます。円山応挙から洋画家・高橋由一の和ものなど、掛け軸になった日本の幽霊がいっぱい!中でも、責め絵の伊藤晴雨が描いた赤ちゃんを守る父親の幽霊の形相がさすがにすさまじく、お父さんの愛情にうたれました(よく赤ちゃんにお乳をあげにくる若いお母さん幽霊の話はありますが、パパさん幽霊は珍しいですね)。
 昔は治らない病気も多く若くして死ぬ人も多かったろうし、今のように精神科もないし、家で死を迎えることが当たり前だったので、狂気や病気、死に日常的に接していたのだと思うけど、それだけ幽霊が出そうな気配にあふれていたのかもしれません…。また、こういう絵こそ、薄暗いお部屋で見るのがよいかも。(展示空間は明るかった)
 ところで、このお寺は幕末における江戸の無血開城の功労者・山岡鉄舟によって建てられたそうですが、隅田川の遊覧船は東京に縁の歴史上の人物の名前をとって、海舟と龍馬というらしく、それよりも私は海舟と鉄舟の方がゴロもよくていいんじゃないかと思うのですが、どうでしょう?

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